創造性の重要性
- 1.ノーベル賞と創造性
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2002年10月、日本は、ノーベル賞を同時に2人が受賞したというビッグニュースで沸きあがった。この2人のノーベル賞受賞劇は、失われた10年をいまだ取り戻せず、経済で失速している日本人を勇気づけるドラマとなった。
同時に、小泉首相が言った「日本も見捨てたもんじゃない」というコメントは、日本人に対して自らの創造性にもっと自信を持てというメッセージになり、創造性について改めて考えるキッカケともなった。
- 2.日本人の創造性
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これまで日本人は海外から、特に中国を中心にさまざまな文化を輸入してきたし、明治期におけるヨーロッパ近代文明の摂取や、戦後の高度成長期に至る過程では、アメリカを中心に諸外国の先進技術を輸入し、それらを改良して、先端技術に育てていった。
こうしたことに対して「日本人は物真似民族である」と評価する向きもあるだろう。では、日本人は創造性や創造力において、他民族より劣っているのだろうか。
たとえば、今から1200年以上も前に、中国から渡来した漢字から平仮名や片仮名を生み出した日本人の能力は何なのか。それが、創造とは異なるものとは思えない。江戸時代、鎖国という特異な時代の中で、日本人は浮世絵や歌舞伎など独特の文化を創り出した。これらも日本人の創造性の成果である。
いわゆる日本の近代化の歴史は、わずか140年である。その歩みは、近代化に取り残された日本のキャッチアップの歴史といっても過言ではない。それは真似たものから、さらに良いものをつくろうという歴史であった。
アップの歴史といっても過言ではない。それは真似たものから、さらに良いものをつくろうという歴史であった。特に戦後は、アメリカを中心とした欧米の先進技術を輸入し、それをさらに発展させ効率化しようとした努力が、今日の生産大国・日本を在らしめたのである。その典型的な事例の1つが、QC(クオリティ・コントロール)だったといえる。
デミング博士が考案した品質管理のQC手法は、日本では大きく開花し、ついには、日本から「改善」という日本語で逆輸入され、アメリカやヨーロッパで「KAIZEN」運動が急速に普及していった。QC手法におけるオリジナリティはあきらかに日本にもあるといえる。
- 3.独創と創造
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筆者は、独創性と創造性を区別している。私は創造を「新しい価値を生み出す過程と結果」と定義づけた。ここに「過程」も入れたのは、子供の創造や企業内の創造など、個人レベルの創造も創造と考えたからである。その意味で、創造は幅広く考えるべきであり、日本人は間違いなく創造性を備えている。
では、独創性はどうかといえば、私は創造性の発展型と考える。心理学者のA. H. マズローは、創造性を「自己実現の創造性」と「特別才能の創造性」とに区分している。この区分を借りれば「自己実現の創造性」が私のいう「創造性」であり、「特別才能の創造性」が「独創性」となる。
しかし、ここで大切なのは、「独創性」は「創造性」がその土台であり、創造性と独創性はレベルの上下はあってもつながっているということである。
結論的にいえば、日本人には独創性もある。ただ今まで、日本人はあまりにも自国の独創性を軽視してきた。また他国に対して、自国の独創性を主張しなさすぎてきたということではないだろうか。
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(作成・高橋誠) 参照・「創造力事典」(日科技連出版社)